こんにちは、『スタディサプリ』でTPM(Technical Product Manager)をしている @ryuta-ishii です。
突然ですが、みなさんは「まだ1件しか来ていない要望」をどう扱っていますか?
プロダクトには、日々さまざまな要望が届きます。利用者へのアンケート回答、営業メンバーが学校で聞いてきてくれた声、問い合わせ窓口に寄せられる相談などです。その中には、同じ内容がたくさん届くものもあれば、1件か2件しか届かないものもあります。
限られた開発リソースを、より多くの人が求めているものに使う。これはプロダクト開発として合理的な判断です。だからこそ、少数の要望は「まだ数件しか来ていないから、優先度は低い」と扱われやすくなります。
私はこの判断に、どこか引っかかっていました。そして、ある機能改善をきっかけに、その引っかかりの正体が見えてきました。この記事では、その経験と、少数の声をどう判断しているかを紹介します。
件数で決めるのは、基本的には正しい
最初にお伝えしておくと、要望の件数を優先度の判断材料にすること自体は、正しいと思っています。多くの人が困っていることを解決すれば、それだけ多くの人に価値が届きます。
一方で、件数「だけ」で判断すると、見落としてしまうものがあります。『スタディサプリ』には、個人で申し込んで使うサービスのほかに、学校単位で導入していただくサービスがあります。私が担当しているのは学校向けのサービスで、先生が使い、その先に生徒や保護者がいます。こうしたプロダクトでは、1件の声が1人分の声とは限りません。
それに気づかせてくれたのが、次の事例です。
事例:欠席連絡の画面を、自動で更新されるようにした話
『スタディサプリ for TEACHERS』には、保護者からの欠席や遅刻の連絡を先生が受け取れる「欠席連絡」の機能があります。朝、保護者がスマートフォン等から連絡を送ると、先生は画面で一覧を確認できます。
欠席連絡機能をリリースしてから少し経った頃に、営業メンバーを通じて、ある学校から「欠席連絡の画面が自動で更新されるとうれしい」という声が届きました。それまでは、新しい連絡を確認するには画面を手動で更新する必要がありました。
同じ要望は、ほとんど届いていませんでした。件数だけを見れば、優先度の高い案件ではありません。
ただ、背景を聞いてみると、その学校では欠席連絡の画面を職員室の大きなモニターに映し、先生たちがみんなで生徒の欠席状況を確認していました。この使い方では、画面が自動で更新されないと、誰かが定期的に操作しなければなりません。そして、1つの画面の向こうには、職員室にいる何人もの先生がいます。
声を上げてくれたのは1校でしたが、朝の職員室で欠席連絡をみんなで確認する場面は、ほかの学校にもありそうだと考えました。
とはいえ、「ありそう」という想像だけで開発に進むわけにはいきません。そこで、欠席連絡を使っているいくつかの学校に、普段どのように使っているかをヒアリングしました。すると、同じように職員室で画面を共有しながら欠席連絡を確認している学校が、複数校あることがわかりました。
声として届いていたのは1校でも、同じ使い方をしている学校は確かにある。加えて、対応にかかるコストもそれほど大きくありませんでした。
そこで、一定の間隔で新着の連絡が自動で画面に反映されるように対応しました。
自動更新をリリースしてからしばらくたった頃、営業メンバーを通じて、要望をくれた学校とは別の学校の声が届きました。
その学校では、新着の連絡が自動で反映されることを「とてもありがたい」と感じてくださっていました。さらに、職員朝礼までに欠席連絡を確認できる先生が限られているため、職員室のスクリーンに欠席連絡を映し出して、全員で同じ情報を見られるようにしたい、という相談もいただきました。それも、必要な情報だけを、自分たちの学校にとって見やすい形で表示したい、というものでした。
要望をくれた学校でも、ヒアリングした学校でもない学校です。職員室のみんなで欠席連絡を確認したいという使い方は、ヒアリングで見えていた範囲よりも、さらに広がっていました。
少数の声は、やはり氷山の一角だったのかもしれません。
少数の声を判断する3つの観点
この経験から、少数の声に出会ったときは、件数に加えて次の3つを考えるようにしています。
1. その声の後ろに、何人いるか
先生からの1件の要望は、先生個人の好みとは限りません。今回のように職員室全体の運用に関わるものであれば、1件の向こうに何人もの先生がいます。さらにその先には、欠席連絡を送る保護者や、連絡される生徒がいます。
要望を受け取ったら、「誰の、どんな場面での困りごとか」を確かめることで、その声の本当の重さが見えてきます。
2. 同じ使い方をしている人が、ほかにもいそうか
声を上げてくれる人は、困っている人の一部にすぎません。特に学校の先生はとても忙しく、要望を伝える機会自体が多くありません。1件の声が出てきたということは、同じ場面で困っていながら声を上げていない人がいるかもしれない、ということです。
今回の判断の決め手になったのも、「職員室のみんなで確認する」という使い方でした。要望そのものではなく、その裏にある利用シーンへ目を向けると、潜在的な広がりを見積もりやすくなります。
ただし、想像だけで終わらせないことも大切です。今回は、ほかの学校にヒアリングして、同じ使い方をしている学校が複数あることを確かめてから開発に進みました。「声が少ない」ことと「困っている人が少ない」ことは別物ですが、その違いは、確かめにいかないとわかりません。
3. 対応のコストはどれくらいか
どんなに価値がありそうでも、コストが大きければすぐには取り組めません。逆に、コストが小さければ、少数の声であっても早めに対応する価値が出てきます。
「声は少ないが、潜在的な広がりが確かめられて、コストも小さい」。今回の自動更新は、まさにこの条件にあてはまっていました。
それでも、すぐにはやらない少数の声もある
誤解のないように付け加えると、少数の声をすべてすぐに実現すべきだ、という話ではありません。
たとえば、特定の学校の事情に強く依存していて、ほかの学校には広がりそうにないもの。対応のコストが大きく、ほかの施策を止めてまで取り組むほどではないもの。こうした要望は、背景をしっかり聞いたうえで、すぐには対応しないと判断することもあります。
大事なのは、件数が少ないという理由だけで判断を終わらせないことだと考えています。
少数の声に応えると、その先の声が見えてくる
今回の経験には、もう1つ学びがありました。
別の学校から届いた声は、「ありがたい」という感想だけではありませんでした。自動更新を活用したうえで、「必要な情報だけを、自分たちの見やすい形で職員室のスクリーンに映したい」という、一歩先の相談が含まれていました。
最初の要望に応えたことで、学校の中で欠席連絡がどう使われているのか、そして先生たちが本当に見たい情報は何なのかが、より具体的に見えるようになりました。少数の声に応えることは、その声に対応して終わりではなく、次の困りごとに気づくきっかけにもなります。
リリースしたあとも、少数の声に耳を傾け続けることを大切にしたいと考えています。
おわりに
要望の件数は、優先度を決めるための大切な判断材料です。ただ、それは判断材料の1つにすぎません。
1件の声の後ろに何人いるのか。同じ場面で、声を上げずに困っている人はいないか。そして、その声に応えるコストはどれくらいか。少数の声と出会ったとき、こうした問いを持つことで、件数だけでは見えなかった価値に気づけることがあります。
みなさんのプロダクトに届いている少数の声の後ろには、何人の人がいるでしょうか。この記事が、「まだ1件だから」で手を止める前に、少しだけ立ち止まるきっかけになれば嬉しいです。