こんにちは、@chaspyです。プロダクト開発部の部長をしています。
スタディサプリ小中高の開発組織では、Engineering Manager (以降 EM と記す) という役割があります。*1 その役割は、エンジニアリングマネージャ/プロダクトマネージャのための知識体系と読書ガイド を引用させてもらうと、People Management + Technology Management を主に担ってもらっています。*2
ありがたいことに、ここ数年で新たに EM にチャレンジしてもらえる機会が増えました。本稿ではそんな EM の活躍をサポートするオンボーディングの仕組みについて説明します。
メンバーのオンボーディングとの違い
さて、新しく入ったメンバーの活躍をサポートする仕組みは EM であれメンバーであれ重要です。*3
スタディサプリの開発組織ではオンボーディングは当たり前に定着しています。ブログ記事もたくさん書かれています。*4
そんなわけなので、EM のオンボーディングがあるのは当たり前な気もしますが、EM ならではの特殊性や個別な事情もあるかと思います。いくつか挙げてみます。
任用直後にグレード設定という重要な仕事がある
弊社は 4月~ と 10月~ の半年単位で大きな人事変更があり、基本的*5に EM 任用はこのタイミングになります。そしてこの切り替えのタイミングでメンバーの評価と次の期のグレードを決める会議が期初に行われます。
評価とグレード設定は分離されており、EM が交代する場合は。評価は前任の責任、グレード設定は新任の責任で行われます。
つまり、新任 EM のかたは最初の大仕事がグレード設定という重要な仕事になります。これはなかなか大変なのは想像に難くありません。*6
(主に人事の内容は)秘匿された情報が多く、引き継ぎの重要性が高い
業務情報であればオープンにナレッジシェアをすればいいですし、EM がよく行う作業のほとんどはドキュメント化されています。
しかし、People Management という業務の特性上、秘匿すべきであり、かつ担当 Manager しか知らない情報・見えてない情報は少なくない量存在しています。
この引き継ぎがうまくされるかどうかは新任 EM の今後の活躍に大きく影響すると考えています。
新任 EM を迎える絶対数が(相対的に)少ない
毎期必ず任用者が現れるものではないため、オンボーディングプロセスそのものを整備しても役に立つ回数が少なく見えるかもしれませんし、あったとしても改善サイクルが回りにくい構造にあると思います。
EM 業務の失敗は大事になる可能性が高い
特に組織や人事に関することは取り返しのつかないことになる可能性もあるため、手厚くサポートしてしすぎることはないのではと思います。
上記のような性質を踏まえ、EM のオンボーディングの重要性は高いと考え、2年ほど前からプロセスを作って少しずつ改善を繰り返しています。
オンボーディングの内容
Issue Template
みんな大好き Issue Template。PR で改善も可能ですし、チェックリストで状況も可視化できて便利ですよね。EM のオンボーディングでも利用しています。初版は @yskttm がシュッと作ってくれました。大感謝。
長いので全文の紹介は割愛しますが、以下の要素が含まれています
- オンボーディングの目的、手段、ゴール
- Input: EM として知っておくべき情報がリンクされている
- 実践
- 前任 EM がやること
- 主に引き継ぎについて
- メンター EM がやること
- 権限変更や Slack チャンネル招待など事務手続きのサポート
- 立ち上がり時のサポート内容
- 新任 EM がやること
- グレード設定会議への準備
- ミッションの設定の準備
- 前任 EM がやること
メンターの存在
通常のオンボーディングでもメンターはいると思います。しかし、EM オンボーディングの場合、引き継ぎ元である「前任 EM」というロールが存在します。一般的な話ですが、情報には非対称性があり、見えてない方は見えてないものを要求することはできません。そこで、引き継ぎが十分に行われるよう、前任・新任ではない第三者のメンターが引き継ぎをファシリテートしてもらえるようにしています。
また、メンターのアサインはランダムというわけでなく、なるべく日頃働く領域が近い人*7をアサインするようにしています。これにより、より日頃の業務上の悩みもより深く理解し、サポートできることを狙いとしています。
引き継ぎの内容
引き継ぎ内容も標準化されています。範囲を限定して Google Docs で行われます。これによって引き継ぐ個人の差が出づらいようにしています。
- 契約関連: 引き継ぎ元 EM が契約オーナー*8になっているものがあれば
- チーム運営について
- グループのマネジメントについて
- People Management
- Name
- 過去のグレード推移
- 次回想定提案グレード
- 強み
- 課題
- 次のグレードに上げるために必要なこと
- 性格・気質
その他の新任 EM をサポートする仕組み
リクルート全社共通のマネージャ研修も用意されています。
全社/エンジニア組織独自の研修
EM 知識の定着のための研修*9や、EM スキル習得のサポートのための様々な施策があります。具体的には、コーチングを受けられる機会であったり、他領域合同のマネジメント相談会が行われています。知識やスキルの定着だけでなく、縦横以外のななめのつながりを作る機会にもなっています。
領域専任人事によるサポート
人事と EM がいる専用チャンネルが用意されており、誰でもなんでも聞くことができます。これは本当に助かっています。リクルートという大きな企業でも誰に何を聞けばわからないという状況を解決してもらえていると感じます。@ai-muramatsu さん本当にいつもありがとうございます...!
その他チーム運営・メンバー育成の支援
それ以外にも、各グループの状態の診断に役立てることができる組織サーベイ*10の実施や、メンバーの育成サポートを行う会議の存在、メンバー個人のキャリア実現を支援する WCM (Will/Can/Must)というフレームワークがあるなど、標準化された仕組みが多く用意されています。
もちろんこれらは必ず活用しなければならない、というものではないですが、僕含め有効に使っているマネージャは多いと感じます。
人事制度について興味がある方は以下のサイトもご覧ください。
おわりに - 新任 EM からの声
EM のオンボーディングプロセスについて紹介しました。
最後に、現場の声を紹介したいと思います。
半年前にオンボーディングを受けた新任 EM からは、以下のコメントをいただきました。(とっても嬉しいです...!)
- オンボーディングがなければ、EMという役割の難しさをより強く感じ、ネガティブな気持ちで今期を終えていたかもしれません。
- メンバーのミッション設定やチームの戦略策定などEM固有の仕事に関して、メンターEMと意見を交換しアドバイスをいただけたことは、私のEMとしてのパフォーマンスを引き上げる重要な要素だったと思います。
また、ちょうどこの4月から新任 EM をされる方々には、以下のコメントをいただきました。(こちらも聞けて安心です)
- EM用のオンボーディングプロセスがあると聞いていたので、EMになることに対するハードルがやや軽減された
- 誰かに相談したい類の仕事が一気に増えるので、メンターEMに相談できる環境は貴重でありがたい
- 前担当者とメンターが分かれているので、より多くのEM視点を知るきっかけになるのでありがたい
これからも EM を組織として活躍をサポートし、開発組織全体をより良くしていくことに貢献したいと思います。
EM の活躍・支援に興味がある人は @chaspy まで連絡ください。話しましょう!
*1:リクルートの正式な役割名称は GM: Group Manager
*2:Product Management / Project Management は Technical Product Manager というロールが大半を担っている。もちろん EM も関与することはある
*3:だいぶ昔に オンボーディングのはじめかた - スタディサプリ Product Team Blog や SRE Team のオンボーディングのいま - スタディサプリ Product Team Blog という記事を書いていたことを思い出しました。同じことをしていますね。
*4:https://blog.studysapuri.jp/search?q=%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0
*5:何らかの事情で途中で交代することもある
*6:もちろん自分が任用時もかなりプレッシャーを感じ、苦労した覚えがあります
*7:考課・グレード設定会議も同じブロックで行われる
*8:契約SaaSごとにオーナーをアサインし、費用の余日管理やアカウント管理に責任を持ってもらっている
*9:マネージャーに求められる役割や概念の理解推進のため